今日は、石ころを持ってきたよ。ちょっと小さいんだけど、きれいなんだ。
えっ。えー。これ、ダイヤモンド! 初めて本物みたわ。
えぇ! センセ。学校に何もって来てんですか。
すごい反応だな。うれしいな。
次のは、もっとすごいぞ。もっと大きいし、形もいいんだ。
センセ。それは、ビー玉。
花子さんは、「ビー玉」ってよぶのか。なかなかいいだろう。大きいし。完全に真ん丸だし、転がして遊んだり、いろいろ使えそうだろ。
センセ。ビー玉なんか関心ないわ。それよりダイヤよ。
えっ。この石ころがいいの? これで、どうやって遊ぶの?
なんで、遊びに使う前提なのよ!ダイヤの輝きは素晴らしいでしょ。ファッションとしてダイヤを身に着けるのよ。いいこと。ビー玉よりダイヤの方が何万倍も高いんだから。
ええぇ。ちょっと光ってるだけでそんなに価値が高くなるはずないよ。
絶対おかしい!
そのとおりよ。センセはおかしい。
同意してくれてありがとう。そう、センセはおかしい。って違う違う。
そうではなくて、こんな石ころに、こんなに素敵なビー玉の何万倍もの価値があったらおかしいでしょ。
でも、ビー玉は1個10円ぐらいだし、ダイヤは安いのでも10万円ぐらいするわよ。1万倍以上高いわ。
う~ん……。おぉ、そうだ。分かったぞ。花子さんは、「価格」の話をしていて、俺は、「価値」の話をしてるんだ。別の事をいってたんだ。
なに言ってるの? ダイヤモンドを売れば、ビー玉を何万個も買えるのよ。
価格が価値でしょ。
そういう売り買いの事を一度忘れて考えてみようよ。 価格は横において、「自分にとっての価値」を考えてみよう。
そういわれても、よくわからないです。
そうだね。お金がある現在の状況だと、分からなくなるので、お金がない世界をイメージしてみて。お金がないので、売る事はできない。ファッションとして身に着けても、誰もそれが、高いとは知らない。そう想像してみて。
このお金のない世界で、この石とビー玉のどちらかもらえるなら、どっちが欲しい? 太郎くんどうだい。
う~ん。そうなると、確かにビー玉の方が使い道があるかな。
男どもはダメね。当然、ダイヤ。ダイヤはみてるだけで幸せになれるのよ。
ハイ、ちょうだい。
えっ。どちらか欲しいか聞いたけど、あげるとは言ってないよ。
つべこべ言わないの。
..... ..... .。
ハイ。太郎くんビー玉、花子さん石ころね。
えぇぇ。冗談だったのに、本当にくれるのやった!
うぅぅぅ。
センセ、大丈夫泣いてない?
気に入ってたんだ大切にしてくれよ、そのビー玉。
そっちかい!
その石が高いものと思えば、見ているだけで幸せかもしれない。でもね、高いと知らないでも、本当に、その石が、花子さんを幸せにするのかな。
何言っているの。私は、今、とても幸せよ。
でも、花子さんは、本物のダイヤと偽物の区別がつかないじゃないか。
にっ、偽物?………。おのれ、センセ。だましたな!
だましてないよ。ダイヤなんて一言もいってないし、……
いいえ。「石ころ」って言いました。ガラス細工のダイヤは石じゃありません。
だから、話を聞けって…
だます人の話なんか聞けません! ううぅ。この偽ダイヤめ!
もう。投げるんだったら返してもらうよ。あらっ。花子さん固まってる。おーい。花子さん。
..... .。
よほどショックだったんだね。しょうがない。太郎くん、二人で話を進めよう。